ジョン・コンスタブル《デダムの谷》

 コンスタブルは、19世紀イギリスで活躍した風景画家です。19世紀はじめのヨーロッパでは、風景が神話や聖書の物語の背景としてではなく、「風景を楽しむため」に描かれるというのは極めて革新的なことでした。19世紀末にフランスで登場する印象派の画家たちも、コンスタブルらの描くイギリスの風景画を大いに参考にしました。
 《デダムの谷》は、イギリス東部にあるコンスタブルの故郷の風景を描いたものです。眼下には平原が広がり、その中央をストゥーア川が蛇行しながら流れています。川の続く先にみえるのが、デダムの街です。中央に見える塔はデダムの教会で、その隣にはコンスタブルの通った小学校がありました。かつての通学路を見下ろすこの眺めはコンスタブルのお気に入りで、構図を変えながら何度も繰り返し描かれました。本作の構図は、17世紀のフランスで活躍したクロード・ロランの歴史風景画の影響を強く受けています。