川上澄生《初夏の風》

かぜとなりたや はつなつの
かぜとなりたや
かのひとの まへにはだかり
かのひとの うしろよりふく
はつなつの はつなつの
かぜとなりたや

 宇都宮で英語教師をする傍ら、版画家として多くの作品を生んだ川上澄生の代表作、《初夏の風》。川上澄生のうたった恋の詩が刻まれ、見る人の心にも一筋の風が吹くような気持ちにさせる作品です。突然の風に驚いたように帽子とスカートを押さえる女性、その周りを舞い踊るように吹く緑色の風は、人のような形をしています。詩にあらわされたとおり、風は女性の前に後ろに吹いており、淡い色でありながら力強いその姿は、抑えがたい恋心を表現しているようです。周囲にしげる新緑の木々も、芽生えた恋への期待感や喜び、生命感を演出しています。
 《初夏の風》は1926年に第5回国画創作協会展に出品されました。今では世界的な版画家として知られる棟方志功は、そこでこの作品に出会い、自らも版画家になることを決めたと言います。