古川龍生《昆虫戯画巻》

 田園風景を描き、花や虫たちを描いた古川龍生は、自然に対して愛情深いまなざしを向けていました。古川が描く植物や小さな生き物は、写実的に描かれていますがどこか親しみがわきます。《昆虫戯画巻》では虫たちが擬人化されて、ユーモラスに描かれているのが特徴です。平和篇、争闘篇、新生篇の3篇に分かれており、畑を耕したり、闘いながら作戦会議を開いたり、月明かりの下で酒に酔ったりと、なんとも人間らしい虫たちが登場します。カマキリやコオロギ、バッタなど各昆虫たちの特徴をとらえて種類を特定できるように描いているのに、それぞれが非常に可愛らしく、一緒の世界に入ってお話をしてみたいと思わせます。対して植物の描写は、東京美術学校の日本画科で学び、写生を得意とした古川の力が発揮されており、迷いのない線が美しい輪郭を生み出しています。また多色刷りの色彩も非常に美しく、とりわけ虫たちが暮らす緑の草の世界は光り輝くようです。道を散歩して《昆虫戯画巻》のような世界がどこかに広がっていないかと探してみたくなりませんか。