高橋由一《驟雨図》

 画面の中央をどんよりとした雲が覆い、川面には雨が激しく打ち付けています。ただ、画面左上では青空が顔をのぞかせていて、右下では夕陽が空を赤く染めています。手前には、激しい雨が去った後で屋形船を出そうとしている船頭たちの姿が見られます。
 「驟雨」とは、夏の夕方に降るにわか雨、夕立の事を指します。描かれた場所は特定されていませんが、屋形船の往来が盛んであった隅田川河畔の風景と考えられています。
 作者の高橋由一は、下野国佐野藩士の子として生まれ、幕末から明治時代にかけて洋画家として活躍しました。幕末にはイギリス人記者チャールズ・ワーグマンに油絵を習い、日本ではじめて本格的に油絵を描いた洋画家として知られ、「日本近代洋画の祖」として高く評価されています。本作は、由一がイタリア人画家アントニオ・フォンタネージに出会い、その影響のもと空気遠近法による表現を始めた明治10年頃に描かれた作品であると考えられています。浮世絵のように平面的であった由一の描く空が、西洋の技法によって奥行きとひろがりを持つようになったことがよくわかる作品です。