石川寒巌《子牛》

 金屏風の上に、青々とした竹林と、ふとこちらを振り向いたような黒い子牛が描かれています。はっきりとした輪郭線と平面的な色面で描かれる竹は、平安時代以来のやまと絵の伝統に基づく描き方で描かれています。一方、写真とも見まがうほど写実的に描かれた子牛の描き方には、近代にもたらされた西洋絵画的リアリズムが取り入れられており、描き方のまったく異なる2つのイメージが共存している不思議な作品になっています。さらにそれが金屏風に描かれることによって、作品全体が琳派のような装飾的な効果を発揮しています。
 作者の石川寒巌(いしかわ・かんがん)は、明治後期から昭和初期にかけて活躍した日本画家です。伝統的な南画の技法を基礎に置きながら、西洋絵画の技法である遠近法や、見たままを写し取る写実主義などを取り入れた新しい日本画を追求し、「新南画」と呼ばれるジャンルを開拓しました。