ギュスターヴ・ドレ 『地獄篇』
ギュスターヴ・ドレは19世紀のフランスで活躍した挿絵画家です。濃密な線で表現された挿絵は見る者を物語の世界へと引き込みます。ドレの挿絵には木口木版という非常に繊細な表現を得意とする木版画の技法が使われています。ドレが版木に下絵を描き、腕のある職人が線を彫るという分業体制で、芸術性の高い挿絵が生まれました。 ダンテの『神曲』では著者のダンテが詩人ウェルギリウスに導かれて地獄を巡っていきます。この『地獄篇』では、彼らが目にした地獄の風景や、罰を受ける人々の様子が劇的に演出されながらも、まるでその場面を本当に見てきたかのようなリアリティを感じさせます。それは絵の中の主人公や主要モチーフにスポットライトを当てるような、光と闇の巧みな表現と、木の皮や葉の一枚一枚、岩肌などの質感を丁寧に描く、細部へのこだわりに裏打ちされています。 |