人見城民《薬草図日光堆朱硯筥》 

 硯箱全体に、生命力あふれるドクダミがあしらわれ、清楚で可愛らしい白い花がアクセントとなっています。近づいて見てみると、葉脈が走る葉の凹凸や、紫色を帯びた葉の輪郭がとても繊細に表現されています。この作品は「日光堆朱」という技法で作られました。
 「堆朱」とは、何層にも塗り重ねた漆に文様を彫ったもので、中国では宋の時代以降、盛んに作られました。それに対して「日光堆朱」は、まずベースとなる木地に文様を浮き彫りし、その上に漆を塗り重ねていくものです。漆を塗ると線が鈍くなるため深く彫りがちですが、木地は意外と薄く、彫りすぎると穴が空いてしまいます。「薄彫りで深みを出す」と語った人見城民の彫りはまさに神業で、彫刻刀のほか、精緻な彫りには折れたミシン針なども利用していました。
 城民は現在の壬生町に生まれ、1906年、日光堆朱の二代目・上野桐恵の内弟子となりました。1938年には堆朱の名工・二十世 堆朱楊成に師事し、1958年頃より二人の人間国宝、音丸耕堂に彫漆を、松田権六に蒔絵の指導を受けました。さらに、城民は色漆の調合も研究し、漆のもつ独特の光沢や渋い色彩が文様とあいまった、格調高い作品を生み出しました。