田﨑草雲《蓬莱仙宮図》

 蓬莱または蓬莱山とは、東の海にあって仙人が住み、不老不死の地とされる、中国の伝説上の霊山です。《蓬莱仙宮図》は、ダイナミックに逆巻く波の彼方に蓬莱山が浮かび、そこには仙人の住む館があり、天空には鶴が舞う様子を描いています。波の描写や、霞による距離感の表現などに伝統的な日本絵画の技法が用いられていますが、見る者の視線を画面上部の仙宮に自然と導く描き方には、西洋の遠近法の影響がうかがえます。
 この絵を描いた田﨑草雲は、江戸時代後半に生まれ、幕末から明治時代にかけて活躍した画家です。彼は二十歳の頃から三十代後半まで、江戸や地方各所の書画会を渡り歩き、絵画の技を磨いたといわれています。狩野派、中国画、やまと絵から琳派まで、草雲の技法の幅は広く、花や鳥、山水だけでなく、人々の暮らし、社会や政治、大災害や海外情勢に至るまで、時に精緻に、時に軽妙に絵画に表しています。草雲は四十代で足利へ移り住み、以後、八十四歳で没するまで、人々から「草雲先生」と慕われました。彼の作品の多くは、足利市緑町にある「草雲美術館」で見ることができます。